コロナ禍で思うこと
新型コロナウィルスによる肺炎のピークが過ぎ、非常事態宣言も解除されつつある。やっと、元の生活に戻れるという期待の反面、流行の再燃を危惧する声も多い。今回の騒動で気づかされたことは、いかに正確で信頼のおける情報が少なかったかである。典型的なのがマスクである。品薄が続き、住民がマスクを求めてヒステリックになり、悪質な商売も横行するようになると、「感染予防にはマスクはあまり効果がない」との情報が氾濫。しかし、最近は一転、マスクは必要不可欠なものとして、着用が推奨されている。確かに、一般的なマスクであれば、ウィルスの小ささとマスクの孔の大きさを考慮すると、ウィルスはいとも簡単にマスクを通り抜けるだろう。簡単な実験でもそれは証明できるはずである。しかし、感染者やキャリアの咳やくしゃみから放出される唾液等の飛散を抑える効果はあるだろう。また感染者やキャリアでなくとも、マスクをすることで感染予防への意識が高まり、ソーシャルディスタンスの確保、手洗いの励行などの副次的な効果も少なくないはずである。治療薬にしても、「この薬剤で治った」といった、EBMに基づかない(経験や症例報告の域を出ない)情報が、一般の人のみならず、俄か専門医が声高に叫んだりする。感染症専門医は、EBMの重要さを知っているだけに、歯切れが悪く、そのコメントは一般受けしないので、あまり取り上げられない。メディアやネットであふれる情報が独り歩きし、その真偽を正す人もなく、国内の経済問題や国家間の中傷合戦も絡んで、コロナ狂想曲は当面収まりそうにない。その中で、「ひとり、ひとりの命を守る」という一番大切なことが置き去りにされなければいいのだがと危惧するのは、私だけではあるまい。
久しぶりに我が家に顔を出した息子が言った。「肘内障の整復手技を、1年目の研修医に指導して、実際にさせてみたら、『入った、クリっとした』と言って喜んでいた。」2年めの研修医が、何を生意気にとも思ったが、「へー」と返事をする。教えることはすなわち学ことでもある。うん、うんいいことだ。冒頭で、経験則だけに頼らないEBMの重要性について触れたが、臨床の現場においては、経験する/させることが不可欠であることは言うまでもない。新型コロナウィルス肺炎で、第一線で、それこそ命を張って頑張っている先生方、医療スタッフは、その経験を確かな情報として発信して欲しい。それは危惧される第2波,第3波の流行を抑える大きな力になるだろう。
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