素敵な敵
グラスにワインを注ぐと、華やかな薫りが鼻を撲つ。今日は解禁日だ。妻の買ってきたボージョレー・ビラージュ。今年のガメイは世紀の不作という情報が流れ、ワインの出来も危惧していたのだが、まずまず平年並みといったところか。一時のワインブームの時は、猫も杓子もボージョレー・ヌーボーで浮かれていたものだが、昨今は愛飲家のセレモニーという扱いだ。ワイン好きにはむしろ好ましい。ワインと言えば、先日息子の二十歳の誕生日に、2008年のオーパスワンを開けた。かつては10万円を超す値がついたワインだが、この頃は2、3万円で購入が出来る。ロバート・モンダビ、バロン・フィリップのダブルネームもデフレの流れには抗えない。
「なかなかいいワインだね。」有り難みのかけらもなく息子が言った。「馬鹿ヤロー、3万円もするんだぞ!」という言葉をグッと飲み込んで、静かに頷いた。ワインを値段で語っても仕方がない。戦時下「贅沢は敵だ。」という看板を「贅沢は素敵だ。」と書き換えた人がいたという。敵だけど素敵、そんな贅沢を味あわせてくれた息子に、まずは感謝。二十歳の門出。赤ワインのタンニンの渋さの如く、そんなに甘くないこれからの人生に「乾杯」。
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