娘の涙
昨年春から、娘が京都の大学に通い始め、息子も9月から家を出て大学近くのアパートに引っ越した。長年家族7人、父が他界してからは6人で暮らしていた我が家が、私と家内そして母の3人暮らしとなった。進む老眼の対策にと、電球色から昼光色に取り換えたLEDの照明が、閑散とした室内を隅々まで照らして、その明るさが寂しさを募らせる。
正月休みということで娘が帰省し、息子もお年玉を期待して家にいる。久しぶりに家族全員が顔を揃え、娘の誕生日を皆で祝った。照明を落とした自宅のワインバーが明るい笑顔で暖かくなる。親元を離れての大学生活、さして面白くもない話が、心の隙間を埋めてゆく。
京都へ帰る娘を空港まで送った細君が、目を赤くしてぽつりと言った。「かわいそうに、ちあむ(娘の名前)泣いていた」。いつもはドライでさばさばとした娘の涙にじんとくる。初めての一人暮らし、親には言えない寂しさもあるのだろう。距離でも時間の流れでも変わることのない家族の絆を、今年も一年、大切にしていこう。そう心に誓う、年の初めである。
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